Atipico / アティピコ NZ / Marlborough

ニュージーランド国内のみならず、世界的にも典型的なソーヴィニヨン・ブランの産地として認知されている南島マールボロに、ひたむきに畑と向き合う才能溢れる醸造家がいます。それがAtipico / アティピコのオーナー Jordan Hogg / ジョーダン・ホッグ(1986年生まれ、現在37歳)。NZの最優秀若手醸造家(Tonnellerie de Mercurey主催)という栄誉を2016年弱冠30歳で勝ち取り、自らが命名した“Vinsitu / ヴァン・シトゥ”(フランス語の“ワイン”とラテン語“本来あるべき場所で”を組み合わせた造語)というアプローチでマールボロから本当に飲むべき価値がある、特別なワインをリリースする男です。


ジョーダンが造るワインは、何の誇張もなく全て文字通り「畑で」産まれます。ブドウはマールボロにおいても高品質なワインを産み出す地域として注目を集めているRapauraに位置しており、ジョーダンが醸造責任者を務めているワイナリーRock Ferryが所有し有機栽培(BioGro認証あり)によって大切に管理している畑(以前は川底だったという、小石を多く含む沖積砂質土壌)。収穫されたブドウは畑の中央に植えられたプラムの樹の下で古樽(大きめのパンチョン樽)に入れられ、人の足によって潰され、その場から動かさずに畑に自生している野生酵母によって自然に醗酵が始まるのを待ちます。これこそがジョーダンがヴァン・シトゥと呼んでいる手法で、「これは僕がどのようにワインを造っているかを端的に表現する言葉。収穫後もブドウが育ってきた場所・気候で過ごし、同じ自然環境で共生していた微生物たちによって醗酵することで、まさにその畑からしか産まれない特別なワインになる。それにその年によって気候条件は異なるから、そのヴィンテージの特徴をよりダイレクトに表現することができるんだ。もちろん簡単なことではないけれど、何よりそうして造られるワインは格別に美味しい。それに醗酵後も畑のすぐそばにあるワイナリーへ移すだけだから、熟成やボトリングまで含めて畑から半径300m以内で全て完結しているんだよ。これは本当に素晴らしいことなんだ」と彼が語る通り、まさにブドウが育った畑をそのままワインボトルへと写し取る、ユニークな試みなのです。


ジョーダンがアティピコ(スペイン語でユニークを意味する)を設立したのは2021年。既にRock Ferryで醸造責任者として活躍していましたが、より個性的で特別なワインを造りたいと自分自身のためのレーベルを作りました。ジョーダンは幼少期をチリで過ごし、大学院では生物学の学位を取得。その後ブルゴーニュでビオディナミを実践している畑の収穫に参加したり、アルザスやボージョレ、イタリアでナチュラルな造りを実践している造り手たちと交流したりして造詣を深めていき、2013年からはマールボロのセレシンで働くように。当時まだまだNZでナチュラルワインは一般的ではありませんでしたが、ジョーダンにとって造るべきワインとは自然に寄り添う姿勢からこそ産まれるものであり、周りに何と思われようともその信念を貫いてきたと言います。さらに2016年にはTonnellerie de Mercureyが主催するコンテストでNZのYoung Winemaker of the Year / 最優秀若手醸造家にも輝き、新世代の醸造家として熱い注目を集めるジョーダン。だからこそ彼のワインはマールボロのある意味予定調和的とも言えるイメージを見事に覆す、実に刺激的な魅力を我々に見せつけてくれるのです。

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